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ラ・ロシェールの街は、アルビオンとトリステインを繋ぐ港町として栄えているが、元々は戦争のために作られた砦であった。 現在は宿として使われているが、この街一番の宿『女神の杵』亭は砦を改装した店だと言われ有名である。 ふだんは旅行客と船乗りを相手にするラ・ロシェールの酒場も、神聖アルビオン帝国との戦いを目前に控えた現在、客層は兵士・傭兵・人夫・商隊がほとんどであった。 娼婦達も稼ぎ時だとばかりに馴染みの酒場へ出かけ、客をとっては宿へ行き、金のない者は倉庫で済ませ、あげく人気のなさそうな路地へと引き込むものもいる。 そんな娼婦達にも、近寄るべきではない場所というものがある。 たちの悪い盗賊や人攫いが、寂れていそうな酒場に集まると、すぐに女達の噂となり、ごく自然にその一角から姿を消していく。 彼女たちはお互いが商売敵ではあるが、互いの境遇から来る同情心と、身を守るための仲間意識を捨てた訳ではないのである。 だからこそ、女たちの近寄らない酒場の裏手から、華奢な女が出てくるというのは、同業者にしてみれば異常な光景なのであった。 (嫌な視線ね…) ルイズは自分に向けられた視線を気にして、フードの端をつまみ深く被り直した。 とぼとぼと夜の街を歩きながら、自分がここに来た理由を思い出していた。 (表面上は平和でも、裏通りは油断のならない街だわ) ラ・ロシェールを警備する衛兵達は、衛兵と自警団だけのは治安の維持に限界があると考え、市内の管理を任されているメルクス男爵に改善の措置を訴えていた。 しかし、提出された嘆願書はもみ消された。 アルビオン人(戦争前にアルビオンから疎開した者、戦時にアルビオンから逃げ出した者)と旧来のラ・ロシェール住民の間に、意図して対立を深めようとする第三者の行動があると分かっていながら、それを無視するのがどうにも不可解であった。 また、着の身着のままアルビオンを脱出した者は、行き場もなく飢えに苦しんでいる。 ウェールズの纏める亡命政権が、旧来のアルビオン民と連絡を取り合い救済に奔走しているが、食料も場所も用意できてはいない。 奴隷商人や人さらいの餌食になっているのが現状であった。 傭兵もまた、雇われたからといって、命令通りに戦うとは限らない。 商人と結託し、トリステイン軍の内情をアルビオン帝国に売ろうとする者も出てくるだろう。 最悪、補給線の崩壊もありうるのだ。 ラ・ロシェールの街は補給を行う上で重要な拠点だが、王宮の目が行き届かない場所でもある。 アンリエッタは戦争を機に、ラ・ロシェールに信頼できる銃士隊を送り込んで監督をさせようかと思ったこともあるが、ウェールズが反対した。 船乗りの集まる街の気風は、ウェールズのほうがよく知っている。 少しでも疑問があるなら念入りに調査するべきだが、監督という名目では現地の人間と軋轢を生むのは得策ではないと忠告した。 マザリーニもそれには同意見だが、どの貴族も戦争の準備で忙しい上、銃士隊も魔法学院の警備・訓練で手一杯。 魔法衛士隊やトリステイン軍を使って内偵を進めるにも、顔が広い貴族がいてはやりにくい。 なので、ルイズがこの件に興味を持ったのは渡りに船であった。 (それにしても、やっぱり、話し相手が居ないと寂しいわね) ルイズは無意識のうちに、今は背中にない鞘の感触を確かめようと背後に手を回していた。 (お父様が時々呟いた言葉、今ならよくわかる) ルイズの記憶には、父であるヴァリエール公爵の言葉がこびり付いていた。 『兵を食わせなければならない』単純だが、自分が生き血を必要とするように、普通の人間には食事が必要だと再認識すれば、その言葉はとても重くなる。 貴族・国家が集めた傭兵の数は膨大であり、食料の確保だけでも一つの事業と言える。 『まず食糧、次に人数』 そう言ったのは父だろうか、父と話している誰かだろうか、はっきりとは思い出せないが、とても重要な言葉だと思えた。 ずっと昔に父や、近しい人から聞いた話が今頃になって重要な話しだと解る。 おそらく自分が魔法学院に残っていたら、この記憶が引き出されることも無かっただろう。 皮肉にも父親から離れて初めて、父母や家庭教師の何気ない言葉が、大切な知識だと思えてくる。 でも、ウェールズやアンリエッタよりずっと自分は幸福な気がする。 たとえ会えなくても、家族は元気でやっているのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ラ・ロシェールの朝は早い。 北側の岸壁は朝焼けで赤く染まり、反射光が街中を優しく照らしだすと、夜を生きる人々は眠りにつき、昼を生きる人達は仕事の準備をする。 日が昇るにつれて人通りが多くなり、店の軒先には果物や野菜が並び始めた。 街道沿いの店で、今日最初の客がリンゴを買う、客はラ・ロシェールは初めてなのか、桟橋の場所を店主に聞いて店を離れていく。 店主は、今の客は旅慣れているようだが傭兵には見えない、貴族でないメイジかもしれない等とくだらない想像をめぐらして見送る。 そんな朝のひとときに、本日一軒目の事件が起きた。 「おう!こいつ、俺にぶつかって財布を盗もうとしやがったぞ!」 「なに、ふざけるな!」 店主が声の方を見ると、大柄で色黒の男が、身なりの良い男の腕をひねりあげている姿があった。 多くの人はこんな光景に慣れており、またスリが出たか、最近は特に多いな、と思う程度だった。 「それにしても身なりのよさそうな奴がスリなんてなあ、その服を売れば多少の金になるのに」 「おい、また泥棒が出たのか」 「またアルビオンの奴らか」 「いや、どうもそうじゃあないんだ、同じ奴が何度もやられたって叫んでるらしい」 「なんだそりゃあ」 どこからともなく聞こえてきたその噂は、静かにラ・ロシェールの街で広まっていった。 衛兵の詰所は世界樹に近い高台にあり、街道沿いの壁を繰り抜いて作られている。 奥には倉庫、牢屋、そして見張り台に通じる階段があり、そこからラ・ロシェールのほとんどを見下ろすことができた。 朝から見張りを続けている衛兵は、岸壁に映る影の角度から昼飯が近いのを知る。 そろそろ交代の時間だ、ようやく休憩だ、昼飯だ。と考えながら後ろの階段を見た。 丁度良く交代の衛兵が上がってくる、今日も時間ぴったりだなと言って、弓矢を壁際のテーブルに置いた。 「おいアルヴィン。交代だぞ」 「やっとか。今日は騒がしいみたいだな」 「さんざん騒がれたスリが、ついさっき捕まった。仲間割れを起こして何人か殺してるらしいぞ。休憩してる暇はなさそうだな」 「げえ、何て日だ。戦争も近いってのによう」 「早くいけよ、隊長にどやされるぞ」 「へいへい」 アルヴィンと呼ばれた衛兵が階段を降りると、詰所の正面に人だかりができているのが見えた。 入口前の歩哨が「見世物じゃないぞ」「さあ散った散った、通行の邪魔だ」と言って人だかりを散らしている。アルビンは興味なさそうに詰め所の奥へと入っていき、とっとと硬いパンを食べることにした。 詰め所の一番奥には牢屋があり、今しがた逮捕された男は手枷をはめられて牢屋に放り込まれている。 その目前には見張り用のテーブルと椅子があり、衛兵隊の隊長は銃士隊の女に椅子を譲って、事情を聞いていた。 隊長は白髪混じりの髪を後ろで纏めた初老の男性で、顔にはナイフで切られたような傷もあり、傭兵団の隊長と言われても違和感のない厳しい顔をしている。 銃士隊の女性は、戦えるとは思えない華奢な体付きをしているが、男を軽くひねり上げる実力はたった今証明されたばかりである。 「ご協力に感謝いたします。まさか銃士隊の方に来ていただけるとは思ってもいませんでした」 「成り行きとはいえ、これも仕事のうちよ」 この男を逮捕したのは銃士隊のロイズ(ルイズ)である、衛兵隊の隊長は逮捕の一部始終を聞いて呆れ返った。 銃士隊であるロイズをスリ呼ばわりしたので、股間を二三度蹴り上げて昏倒させ、衛兵の詰め所に連行してきたらしい。 うつろな目で宙を見ている犯人は、よほど強く蹴り上げられたのか、文句ひとつ言わず牢屋へと連行されていた。 「銃士隊の方が逮捕してくださるのは有難いですが、我が衛兵隊の不甲斐なさが露呈したようで大変申し訳無いことです。この男が根城にしていた酒場で死体が見つかりましたが、あなたが逮捕してくれなければ逃げられていたかもしれません」 「こいつがドジなだけよ、さっさと逃げずに欲をかいたのね」 「まったくです」 ところで隊長さん…ラ・ロシェールは衛兵が足りていないと聞いているわ。その点、どうなの?」 「おっしゃるとおり、自警団と協力しておりますが、平民ばかりでは限界があります」 「伯爵には訴えなかったの?」 「ラ・ロシェールは、メルクス男爵が実質的に統括しておられます。何度か窮状を訴えましたが、考え過ぎだとか、桟橋の警備で手一杯だと言われまして」 「それは…」 「人も金も足りないのは分かっているのです。しかし、現実にこういった争いが積み重なって、暴動に発展する恐れがあります、それだけは避けたいのです」 隊長の表情からは、苦労がにじみ出ていた。 「隊長さん、あなたにとっては大変つらい知らせだと思うけど…」 ロイズ(ルイズ)は、銃士隊である自分がここに来た理由を説明した。 衛兵たちが達が提出した嘆願書に応じてこの街に来たのではなく、嘆願書が破棄されていると報告があったので内偵に来た。 王宮へ届く報告書は『貴族の手で安全を維持され、万全である』という内容だが、この矛盾は何であるのかを調べるという。 場合によっては街の治安に関わるメルクス男爵の内偵も進めると聞き、衛兵隊長は両拳を握りしめて、悔しさに耐えていた。 「直属の上司たる男爵に疑いがあっても、我々には直接どうすることもできません。どうか、この街のためにも、真実を明らかにしてください」 「…あなたは、ずっと衛兵を? 失礼かもしれないけど、あなた言葉に品があるわ。執事の経験があるみたい」 「私の父はメイジの傭兵団で身辺の世話をしていました。私も父の手伝いをしていたので、よく可愛がられたものです。言葉遣いはその頃に習いました」 「だから嘆願書を書くなんて知識があったのね」 「ええ。傭兵団が解散した時、故郷であるこの街に戻って来ました。父は報告書を書くのに役に立つと言われ衛兵になり、私も同じ仕事しようと思っていました。この街は、私と父の思い出で溢れているのです」 「……そうなの」 ロイズ(ルイズ)は何か心に感じるものがあったが、それが何なのか言い表せなかったので、余計なことを考えないようにと表情を固くした。 「ええと、それじゃ、そろそろロバートって子を預かっていくわ」 「はい、あの子にも悪いことをしました」 「ねえ隊長さん。 …ロバートが財布をすったって話、信じたの?」 「言わないでください。私も、悩んだのです」 パンをかじっていたアルヴィンは、奥の部屋から隊長が出てきたのを見て、どっこいしょと椅子から立ち上がり敬礼をした。 「隊長。アルヴィンです。見張りをコーラスに引き継ぎました」 「ご苦労、しばらく休んだらリック達と『金の酒樽亭』に”掃除に”行ってこい」 「掃除…つーと、あのボロ酒場でまた?」 「喧嘩じゃないぞ。奥の倉庫で五人死んでる、盗賊の仲間割れだ。ひどい有様だよ」 「うへえ。了解しやした」 飯を食ったあとに死体を片付けるのは嫌だが、仕方がない。 「そういや、誰か捕まえたって話で?」 「ああ…それはな」 と、隊長が言いかけた所で、奥の扉が開き、フードを被った女が少年を連れて牢屋から出てきた。 「ほら、ロバート。胸をはりなさい。あんたの疑いは晴れたんだから」 「……」 女が少年の背中を軽く叩くと、少年は歯を食いしばりながらも、目の前に立つ隊長を見上げるようにして胸を張った。 「君の疑いは晴れた、もう行ってよろしい」 隊長がぶっきらぼうに告げると、女は不満気に腕を交差させた。 「あら、隊長さん、それだけ?」 「それだけ…とは? あ、いや、そうだったな。ロバートの名誉を回復することをここに宣言する。後ほど君が厄介になっている酒場へ行き、改めて説明させてもらおう」 「隊長さんはそう言ってるけど、あなたはそれでいい?」 女が少年の顔を覗き込むと、ロバートは汚れた袖で涙を拭う。 「いい、早く帰りたい」 ロバートはそう呟くと、ぐっと両手を握りしめた。 「…じゃ、後のことは任せるわ」 「はっ」 敬礼で二人を見送ると、隊長はふぅと息を漏らした。どうやらかなり緊張していたらしい。 「隊長?今の女はいったい?」 ためらいつつも、好奇心に負けたアルヴィンが聞く。 「ああ、あんまり本人に聞こえるようなところで言うなよ、ありゃ女王陛下直属の銃士隊だ。俺たちがちゃんと働いているか見に来たんだとさ」 「そりゃまた、厳しいことで」 アルヴィンが軽口を叩くと、隊長はふと思い出したように呟いた。 「そうだな、アルヴィン、これから話すことを休憩中にでも仲間に伝えてくれ。巡回中にもこの件について質問されればなるべく答えるように」 「へい」 「、アルビオン難民ならびに疎開民と、ラ・ロシェール市民の対立を目論んでいたらしい。ラ・ロシェールを荒らすよう雇われていると自白した」 「今のやつがですか」 「何者かに金貨で雇われたらしいが、その取り分で仲間割れを起こして『金の酒樽亭』に死体が転がってる。さっきの女は銃士隊の一員で、この件には偶然関わったんだと」 「なるほどねえ、この街にもアルビオン帝国の間諜が入り込んでるってことですかい」 「そうなるな。手口は、いわゆる狂言スリだが、なにせ被害者の数が多い、銃士隊からは『被害者の名誉回復に努めよ』ときつく命令されたよ」 「わかりやした」 アルヴィンは、道理で隊長のしかめっ面がいつもより厳しいはずだ、と納得して詰め所の仲間のもとに向かった。 隊長はそれを見届けると、緊張が解けたのか自然と深呼吸をしていた。 「つれぇなあ」 隊長は、誰に言うでもなく呟いた。無性にエールを飲みたい気がした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ロバート!よく帰ってきたねえ、ほんとうに大変な思いをさせたね。お腹が空いているかい?すぐ何か作ってやるよ」 酒場の女将がうれしそうに目元をほころばせて、ロバートを抱きしめた。 ロバートは少し苦しそうだが、決して嫌そうではない。 「おばさん、苦しいよ。このお姉さんが屋台で買ってくれたから、食べ物はいいよ」 「ああ、ごめんよ。つい嬉しくてねえ。あんたもよくやってくれた。銃士隊のロイズさまさまだ、今日はいくらでも飲んでおくれ」 ルイズは自分がロイズと名乗っているのを思い出しつつ、女将の豪快な言葉に苦笑した。 「これも仕事のうちよ。まだやることがあるから夕食は遠慮するわ」 「食べて行かないのかい?そんなんじゃ筋肉はつかないよ」 「ややこしい用事があるから、また時間のあるときに来るわ。ロバートもその時また会いましょう、元気でね」 女将から解放されたロバートがルイズを見上げる。 「おねえちゃん、ありがとう。でも、俺だけじゃなくて、もっと嫌な思いをしてる奴が居るんだ。俺はコーラのおばちゃんを知ってたからいいけど、友達は、どこに行ったかわかんない。わかんないんだ」 ルイズは、思わずロバートの前に跪いて目線を合わせた。 「私はそれを調べに来たの。もし、あなたが知っていることがあれば、教えてくれない?」 「……人買い」 「人買い?」 「この街の、東の山間にある貴族の家、あそこに出入りしてる奴、人買いなんだ。絶対そうだ、あいつら、アルビオンから逃げてきた俺達を捕まえてるんだ」 「その話、もっとよく聞かせて」 ルイズの目付きが鋭くなったのを、女将は見逃さなかった。 「ロバート、その前にあんたは体を拭いて、着替えてきな。鼻声で何言ってるか分かりゃしないよ」 「う゛ん」 「ノミが付いてたら困るから、ちゃんと洗うんだよ」 ロバートはぐしっ、と鼻を袖で拭うと、酒場の奥へと駆け込んでいった。 「悪いね。この話は、あたしから先に伝えておこうと思ってね」 女将はいつの間にかワインを開けて、ルイズと自分の分を準備していた。 客の居ない酒場で、丸いテーブルの上に置かれたワインがふわりと香った。こんな酒場にあるのが不思議な上物のワインだとも分かる。 「一杯ぐらい飲みなよ」と言って女将が勧めるので、ルイズは酒の価値に気づかないふりをしつつワインを口に含んだ。確かに上物だった。女将なりの御礼なのだろう。 「本当はね。銃士隊だからといって信じられなかったんだ、あたしたちのためにロバートを取り返してくれるのか、どんな手で取り返すのか、それが疑問だった。悪いね疑い深くて」 「本当ならアニエスに来て欲しかったんでしょう? 銃士隊としてではなく、友人として聞いて欲しい話があった。違う?」 「その通りさ。そのへんを理解してくれると助かるよ。」 「…で、そこまで用心深くなる理由は?」 ルイズがそう聞くと、女将は神妙な顔つきになって、小声で話しだした。 「まず聞くけど…ロバートは狙われたのかい?それとも偶然に疑いをかけられたのかい?」 「偶然、よ。狙われる理由でもあるの?」 「ロバートと同じ時期に疎開してきたアルビオン人には子供もいたが、身寄りがなくてね、この街の実験を握ってるメルクス男爵の屋敷に連れていかれたのさ」 「男爵の屋敷に…どうして」 「仕事ができる場所や孤児院を紹介するって名目で連れていかれたのさ。だけどロバートは見ちまった。男爵の屋敷から、アルビオンで見た奴隷商人が出てくるのをね」 「それって、男爵と奴隷商人が結託してるって事?」 「ああ、その通りさ。ロバートはその子らに会って、ここから逃げようと説得したんだが、衛兵に追い出されてねえ。それから数日して、逮捕されたわけだから、あたしゃ肝を冷やしたよ」 「そういう事情があったのね…」 「あたしは、傭兵上がりってだけじゃ信用できなくてね。お偉い貴族に雇われていい気になる奴を見てきた、だから」 「アニエスに紹介された銃士隊といえど、すぐには信用しなかったって訳ね」 「悪いね」 「それぐらいの用心、アニエスなら『当然だ』で済ませるわよ」 ルイズは笑って答えると、ワインを飲み干した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 夕方。 世界樹に停泊しているトリステイン軍の軍艦内では、トリステイン軍の軍議が開かれていた。 大型戦艦の中に設置された会議室では、教導士官、技術士官、軍参謀など、二十名ほどが集まり、物資搬入が予定通り行われているか、人員は、将軍はいつ乗艦するのかと報告を受け、最終的な打ち合わせをしている。 その中には、レキシントン号の艦長を務めた、サー・ヘンリ・ボーウッドの姿もあった。 彼は上官の命令に従い、反乱軍として王党派と戦ったが、トリステインとの戦いに負けて捕虜になった男である。 教導士官には相応しく無いという声もあったが、トリステインはアルビオン空軍の戦略、戦術を知る必要があった。 ウェールズ皇太子とはじめとするアルビオン亡命政権と、アンリエッタ女王陛下の助言、そして本人の強い希望により、ボーウッドは教導士官に任命されたのである。 もちろん皆が納得するわけではなかった、「敗軍の将は何をお考えですかな」と皮肉を込めてボーウッドに質問する将校もいた。 しかし打てば響くように、ボーウッドは軍務関係の質問であれば難なく答えてしまう、豊富な経験に裏打ちされた知識は、士官達の関心を引き、尊敬の念すら抱かせたのだ。 護衛として壁際に立つワルドも、ボーウッドの言葉には学ぶものがあった。 彼の上官が無能でなければ、トリステインは前回の戦で負けていただろう……素直に、そう思えた。 その日、月が高くなる時間になって、ようやく軍議が終わった。 士官達は、ラ・ロシェールの駐屯地に戻って行ったが、ボーウッドだけはラ・ロシェール領主から晩餐会に招かれ、領主の屋敷で宿泊することになっている。 晩餐会に出席させてやるから軟禁は我慢しろ、という意図があるのだが承知のうえである。 ボーウッドはワルドと共に馬車に乗り、屋敷へと向かっていった。 コツコツと蹄の音が、ガラガラと車輪の音が聞こえる馬車の中で、ボーウッドはふとワルドの顔を見た。 静かに馬車の外を見つめ、自分のことなど気にしているとは思えなかった。 「気になりますかな」ワルドが呟く。 「気にならぬといえば嘘になる。…正直に言えば、貴公とこのような形で同席するとは思わなかった」 「同意見です。見る者が見れば、おかしな組み合わせだと思うことでしょう」 ワルドは無表情で答えているが、どこか自嘲気味に見える。 「…祖国を裏切った者同士という事かね」とボーウッドが聞く、ワルドは今度こそ自嘲気味に笑った。 「はは、慣れませんか」 「慣れないな」 少しの間、がらがら、がらがらと馬車の音だけが響いた。 「私も、正直に言えば慣れません。しかし…」 「しかし?」 「裏切るよりも、辛い生き方を知りました。裏切り者として祖国の貴族から非難されても、大した事ではないと思えたのです」 「なるほど」 すこし間があって、膝に肘をつくようにしてワルドに顔を近づけたボーウッドが、重々しく声を出した。 「これは…私の個人的な興味として、聞いてみたいのだが。君は最初から二重スパイだったのか。それとも途中で?」 「後者です」 ワルドは躊躇わずに答えた。 それが予想外だったのか、ボーウッドの目に一瞬動揺が浮かんだが、すぐに気を落ち着けて背もたれに体を預けた。 貴族は名誉を重んじるが、名誉のためならば多少の不都合は目をつぶるという一面もある。 彼と、トリステインと、レコン・キスタの間にどんな関わりがあったのか、どんな理由があって彼が今の立場にいるのか、そんな事を聞いても正直に答えてくれるはずはないのだ。 「…余計なことを聞いたな」 「いえ」 それから間もなく、ボーウッドとワルドを乗せた馬車が、ラ・ロシェール伯の別邸へ到着した。 ラ・ロシェールは港という性質上、王宮が直接統治している土地であり、ラ・ロシェール伯爵はある種の名誉職として扱われている。 何百年も前に、トリステイン大公の別荘として立てられた宮殿を現在でも用いて、ラ・ロシェール伯の別邸として利用されているのである。 馬車が門をくぐり抜け、庭園を超えて正面玄関に到着すると、魔法衛士隊のマントを着たワルドが馬車から降り先導を務めた。 表情には出さないものの、晩餐会に招かれた貴族の中にはワルドを嫌うものもいる。 トリステインを裏切り、仲間を殺した男である以上、蔑むような視線は当然だろう。 晩餐会は立食の形式で行われた、ラ・ロシェール伯の挨拶が終わると、ボーウッドは空軍関係者に親しげに声をかけられて、歓談に興じた。 船上では、上官の命令に過不足なく答えることが唯一絶対であると聞いたが、そういった気風はトリステインもアルビオンも変わらぬらしい。 歴戦の勇士であるボーウッドは、間違いなく尊敬を集めているようだ。 「お客様、本日はガリア産のリキュールと、タルブ産のワインに良いものがございます」ワルドはふと、その言葉が自分に向けられたものだと気づいた。 銀製のトレイを持ったメイドに酒を勧められるなど久しぶりだが、ボーウッドの護衛と監視があるので酒は飲む気がしない。 「酒はいい。果実を絞ったものはあるか」 「赤いオレンジが冷えております、他にも…」 「それでいい」 「かしこまりました」 不思議と、飲み物をもらうだけの会話で、少し気が晴れる気がした。 「…僕に話しかけてくれるのは、メイドだけか」 カタカタとデルフリンガーが揺れ、ワルドだけに聞こえるような声でつぶやく。 『遍在じゃなく、自分が嬢ちゃんのところに行けば良かったんじゃねーか?』 「僕も今それを考えてた所だ」 デルフリンガーが人間なら、やれやれと言って首や手を振っていただろう。 『やれやれ、嬢ちゃんもおめーも、難儀な性格だ』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 時を同じくして、ラ・ロシェールの酒場では、釈放されたロバートを一目見に自警団が集まっていた。 「ロバートの疑いが晴れた!ラ・ロシェール万歳!トリステイン万歳!アルビオン万歳!」 「「「「「おおーーー!」」」」」 女将のコーラは「自警団全員が酔いつぶれちゃ困るよ!」と怒鳴るものの、うれしさは隠しきれていない。 自警団の団長は服飾の卸をしている初老の男性で、仕事でも見回りでも革製のエプロンを愛用している。ぷはぁエールを飲み干し、自警団の仲間たちを一括した。 「おい!酔っ払うのは後だ、見回りに出るぞ!」 「へい!」「おう!」「もう一杯!」「さあ行くか!」 自警団の面々は気合を入れると巡回に出発し、酒場は急に静かになってしまった。 「コーラ、ロバートの疑いが晴れたのは嬉しいがよ。この街でアルビオン人とトリステイン人を喧嘩させようって企ては終わっちゃいねえ、これから酷くなるかもしれねえ」 「わかってるよ、この酒場が狙われるかもしれないってんだろ?いざとなればこの子だけでも逃がすよ」 「安心しな!そんな事はさせねえ、何かあったらすぐ俺達にも連絡がくるように、今夜から酒場への巡回を増やす。なにか怪しいことがあったらすぐ伝えてくれ」 「頼りにしてるよ」 この街で、お互い古くからの付き合いがあるのだろう。団長と女将の間には信頼関係が見えた。 ロバートが「おっちゃん、ありがとう」と言うと、団長はロバートの頭に優しくてを乗せた。 「おっちゃん達がおめえ達を守ってやるから、安心しな。おめえの友達も、見つけたらちゃんと教えてやるからよ、な」 「うん」 ロバートの返事に気を良くしたのか、団長ははははと笑って、巡回に出た仲間たちの後を追って出ていった。 自警団と女将のやりとりを聞いて、酒場の奥を借りているルイズが感心のため息を漏らした。 「ずいぶん仲がいいのねえ、酒場って、厄介な人も来るけど、こういう人も集まるのね」 「旅行者も盗賊も、アルビオンに向かうのならこの街を通るからな。強い結束でよそ者を排除する必要があるのさ」 相槌を打ったのはワルド、もっとも彼は今晩餐会に出席しているので、ここにいるのは風の遍在である。 二人は木箱の上に座り、一日の出来事を報告しあった。 「私が捕まえたのは金で雇われた盗賊よ、誰に依頼されたかは探れそうにないわ。その代わりロバートって子から、目当てに近い話を聞けた。…メルクス男爵の屋敷に人買いが出入りしてるそうよ」 「本当か?だとすれば、早くそのことを知りたかったな。今僕は晩餐会に出席しているから、聞き耳を立てるには調度良かったのだが」 「晩餐会?」 「レキシントンの艦長、サー・ヘンリ・ボーウッドが教導士官に任命されたのは知っているだろう。ラ・ロシェール伯が彼を招いたんだ」 「…ふうん。自領を攻撃した戦艦の艦長でしょう?晩餐会に招いて暗殺なんて、よくある話よ」 「可能性は無いと言い切れないが…ボーウッドは他の士官にも一目置かれ、この戦いの鍵を握るといっても過言ではない。伯爵も暗殺されては困ると理解しているさ」 「実際、あなたの見立てでは、どう?」 ルイズの質問に、ワルドはあごひげを撫でながらううんと唸った。 「…勉強になる。これが素直な感想だよ」 「いいなあ。私も勉強したいかな」 勉強したい、というルイズの言葉から、寂しげな雰囲気を感じたが、余計なことを言って気にさせるのも悪かろうと思い、聞かなかったふりをした。 二人が黙ってしまうと、酒場から聞こえてくる喧騒がやけに響く気がした。 「…ねえワルド、ちょっと考えたのだけど、私って子どもっぽいでしょう?」 「子供ではないよ。君は十分に大人だ。ミ・レイディ」 「いじわる。それじゃ子供扱いじゃない。でも今回はそれが役に立つと思うの。孤児として屋敷に入り込むなんて、いいと思わない?」 「しかし、病気の有無ぐらいは調べるだろう。男爵は水系統のメイジだと聞いているし、君の体のことが…」 「たぶん大丈夫よ。考えはあるから」 「ならいいんだが」 「心配、してくれるのね。ありがと」 「ああ」 「そうだ…せっかくだから、乾杯しましょ」 「次は本体で飲みたいね」 二人は話を終えると、安物のグラスで乾杯した。 ルイズは念のため、ワルドに酒場の警備を頼むと、自身は酒場の二階から抜け出してある場所へと向かっていった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 町外れにある通路は、獣道と見紛うような細い道となり、雑木林の奥へと続いていた。 ここまでくるとラ・ロシェールは巨大な岩山にしか見えない。街の灯は隠れ、見上げても世界樹はちょうど岩陰になっている。 この場所が隠されている理由はすぐに分かるだろう。 林立する石碑や、乱雑に置かれた石、そこら中に立てられた杭、そして鼻を突く腐臭…。 そう、ここは行き倒れや、身元の分からぬ者が埋められた共同墓地である。 「おうぅうう、おおお…」 幽鬼のような唸り声を上げて、墓場を徘徊する女がいた。 「どこ、どこにいるの」と弱々しく呻いては、石をひっくり返そうとしたり、手で地面を掘り返そうとしている。 エプロンは泥で汚れ、指先はぼろぼろに荒れていた。 「あううあああ、ああああああ」 四十前の彼女は、飢えと涙とで顔をくしゃくしゃにして、まるで老婆のような顔をしている。 この地に埋められた子供を掘り返そうとするが、手に力が入らない。 諦めてまた泣くが、すぐにまた地面に指を伸ばす。 それが延々と続けられていた。 「お父さんはどこに行ったの、エリーはどこにいるの、エリー、えりぃいいい…」 正気ではない女の背後に、ゆっくりと近づいていく。 小声でルーンを詠唱し、消すべき記憶を定めて、杖を向ける。 「…忘却」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ああ、エリー、ここにいたんだね!ここにいたんだねえ、ああ、エリー、おおお…」 女は、娘を抱きしめて泣き出した。 女はひとしきり泣くと、娘の顔を月あかりに照らして、泥だらけになった顔を拭おうとした。 「…お母さま」 「ああ、エリー、よく顔を見せておくれ、泥だらけになっているよ」 そう言って子供の顔を拭おうとするが、女の手についた泥がつくばかりで、かえって顔を汚している。 「お母様こそ泥だらけよ、ねえ、もっと暖かい所へ。もっと明るいところへいきましょう」 「そうだねえ、明るいところへ行こうねえ、お前の文だけでもパンを貰ってくるから、もう少し我慢しておくれ」 「ありがとう、お母様。でも、お母様こそ食べて欲しいの」 「優しいんだねえエリーは、いいんだよ、私はお腹いっぱいだから…」 「お母さま…」 親子は手をとりあって、街へと歩いていった。 あとに残るのは、カラスの鳴き声と、掘り返されたエリーの遺体。顔のない遺体。髪の毛と顔が剥がされた娘の遺体。 「お母様、この街の男爵様が私たちを助けてくれるそうよ。きっと二人分のパンをくださるわ、行きましょう」 月明かりの中。仮面を被ったルイズのほほえみ、まさしく娘の微笑みだった。 ======================== 今回はここまでです。
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前ページ次ページゼロの賢王 トリステイン魔法学院。 その中庭で、ドカーンと威勢のいい音が鳴り響いた。 これで何度目だろう・・・。 同じ制服を着た少年少女たちは、1人の少女を見ながらそう思っていた。 ピンクブロンドの髪を振り乱し、華奢な体をふるふると震わせる少女。 彼女の名はルイズと言った。 ルイズは何とか自分を落ち着かせると、再び目を閉じて、杖を構えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 そう静かに、そして確かに呪文を唱える。 「五つの力を司るペンタゴン」 これは召喚魔法。 彼女のパートナーとなる使い魔をこの場に呼び寄せる呪文である。 「我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ」 少女は力を込めて杖を振った。 その直後、目の前で大爆発が起きた。 大量の土煙が舞い上がり、その場には大きなクレーターまで出来ていた。 周りで見学していたルイズの同級生たちは誰もが、 「『ゼロのルイズ』がまた失敗した」 そう思い、ルイズを嗤おうとした。 その時、立ち込める煙の中に人影が現れた。 少女は目を見開く。 もうもうとした土煙が晴れると、そこには金色の長い髪の男が倒れていた。 「・・・え?」 ルイズは愕然とした。 ドラゴンやグリフォンなどといった高等な生物まではいかなくとも、 せめて使い魔らしい使い魔を呼びたかった。 だが、目の前にいるのは人間。 しかもどう見ても平民である。 それに気付いてから同級生たちの嘲笑の声が辺りに響き渡るのに時間は掛からなかった。 「ハーッハッハッハハ!!!おい、見ろよ。あれ平民だぜ!?」 「やっぱり『ゼロのルイズ』だな!!アハハハハハハ」 「ひ・・・ひ・・・も、もうダメ・・・笑い過ぎで、腹が・・・!!」 ルイズは頭の中が真っ白になった。 暫く呆然としていると倒れていた男がピクリと動く。 「んん・・・」 男は頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。 そして、薄く開いた目で辺りをキョロキョロと見回している。 その顔もこれまた野暮ったい顔である。 年齢もこの召喚テストを取り仕切っているコルベールと変わらない様に見える。 ルイズは思わず頭を抱えていたが、すぐにピンクブロンドの髪をひるがえして、 側でルイズと同じ様に呆然としているコルベールへと向き直った。 「ミスタ・コルベール!」 「・・・あ、な、なにかな、ミス・ヴァリエール?」 「あの・・・も、もう一度!もう一度召喚させて下さい!!」 「それは出来ない」 コルベールは首を振って否定の意を示した。 「使い魔の召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した使い魔を変更することは出来ない」 「でも、アレは平民です!使い魔じゃありません!!」 「例え平民であっても、召喚された以上は君の使い魔だ。君は責任を持って彼と契約する義務がある」 「で、でも!!」 ルイズは必死に食い下がるが、コルベールは再び首を振ってそれを拒否した。 「さあ、早く『コントラクト・サーヴァント』をしたまえ」 「し、しかし!!」 そうは言いながらもルイズは分かっていた。 『サモン・サーヴァント』が成功したのは、今の自分にとっては奇跡的なことであり、 今が最後のチャンスなんだということを。 正直、ルイズは再び『サモン・サーヴァント』を成功させる自信が無かった。 「ちょっといいか?」 突如聞こえた言葉がルイズの思考を遮る。 気が付くと、男が二人の側まで来ていた。 「ここは一体何処だ?俺は一体どうなった?さっきまで確かに船の上にいたんだがよぉ・・・」 ルイズは横目でジーっと男の顔を見る。 そしてハァとため息をつくと、覚悟を決めたかの様に男へと向き直った。 「あんた、名前は?」 そう言うと、ルイズはキッと男を睨み付ける。 頭で納得出来ても、やはり心では納得出来ていないのだ。 男はいきなり睨み付けられて少しムッとした顔になった。 「お嬢ちゃん。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが年上に対する礼儀って奴だぜ?」 「いいから名前!!」 「だから、まずそっちが名乗れって・・・」 「名前!!!!」 「・・・・・・」 男は先程のルイズの様にため息をつくと、やれやれと言った感じで答えた。 「・・・ポロンだ」 「ポロン?変な名前ね。いいわ、ポロン。ちょっと屈みなさい」 そう言うとルイズは人差し指をポロンに向けて、下へと曲げた。 「ハァ?何で俺がいきなり会った見ず知らずのガキに名前呼び捨てにされて、 更に言われた通りにそんなことしなきゃならねえんだ?」 「ガキ・・・?(ピキッ)・・・いいから早くしなさい」 「ったくよぉ」 ポロンはこれ以上言っても無駄だと思い、渋々身を屈めた。 ルイズの顔が近くなる。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 (意外と可愛い顔しているな) ルイズの顔を間近で見て、素直にポロンはそう思った。 だが、ポロンとて愛する妻がいる身であり、血が繋がってはいないもののたくさんの子供もいる。 ポロンがルイズに感じた可愛さは、親が子に思うそれと同質のものであった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」 それに見惚れていたというわけではないが、ルイズの突然の行動にポロンは何も出来なかった。 重なる唇。 流石のポロンもサクヤや子供たち以外と口づけを交わすのはかなり久し振りであり、少し気恥ずかしくなる。 ルイズの体がポロンから離れた。 「・・・終わりました」 それだけ言うと、ルイズの顔は急に赤くなりポロンから目を背けた。 可愛らしいところもあるんだな、と思った瞬間、ポロンの左手に激痛が走った。 「何!?」 毒でも仕込まれたのか?と一瞬勘ぐったが、痛みはすぐに治まった。 代わりに左手には見たことも無い文字で印が刻まれていた。 「何だ・・・こりゃあ?」 「それは使い魔のルーンよ」 「使い魔の、ルーン?・・・つーか、使い魔って何だ?」 「使い魔は使い魔よ。ポロン、今日からあなたは私の使い魔となるのよ」 「ハァ!?何だそりゃ!?」 ポロンは開いた口が塞がらないという感じで言った。 するとコルベールが二人の間へ入った。 「ミスタ・・・そのことは私から説明しましょう」 コルベールから今の事情について簡単に説明した。 今は使い魔召喚の試験を行っているということ。 ミス・ヴァリエール・・・つまりそこの少女がポロンを召喚したということ。 彼女はこの試験に合格出来なければ留年となること。 故にポロンと使い魔の契約を交わしたということ。 「何じゃそりゃあ!?俺は使い魔なんてやらねえぞ!!」 それを聞くとポロンは全力で拒否の意を表明した。 いきなり見知らぬ土地へ連れて来られて、更に見知らぬ子供に口づけされて、 それで今度はその子供の使い魔となれ。と言われているのだ。 拒否しない方がおかしい。 「ハァ?何言ってんの?あんたみたいな平民に拒否権なんて無いわよ」 「ああ?あんだってー?」 「平民が貴族に従うのは当然じゃない!大人しく使い魔になりなさい」 「今のでカチンと来た!!絶対に嫌だね!!」 ポロンが頑なに拒否していると、またクスクスと笑い声が聞こえる。 「おい、『ゼロのルイズ』が平民に拒否られてるぞ!」 「アハハハハ、自分の使い魔に拒否られるなんて流石は『ゼロのルイズ』だな!!」 「ていうか、あれって使い魔なの?ただの平民だろー?」 その声は、事情を知らないポロンさえも不快な気分にさせた。 『ゼロのルイズ』が何を意味しているかは分からないが、 目の前の少女が馬鹿にされている。というのは伝わって来る。 ふと見ると、ルイズはわなわなと震え、目には涙を浮かべていた。 ポロンは「ふむ」と顎に手をやると、すぐに軽く頷いた。 「おい」 「・・・何よ?」 「使い魔になってやってもいいぜ」 「へ?で、でもあんたさっき絶対に嫌だって・・・」 「気が変わった。これからよろしくな、えーっと・・・ルイズだっけ?」 「な、何で私の名前を?」 「さっきから周りのガキ共が『ルイズ』って言ってたからな。お前のことだろ?」 「ええ・・・」 『ゼロの』という部分を敢えて言わないのはポロンの優しさだった。 本来のポロンは子供にはとても優しい人間である。 『ゼロ』が示す意味については気になる部分もあったが、それが彼女にとって触れられたくないものである。 ということはすぐに察せられたので『ルイズ』とだけ言ったのだ。 「ふ、フン!最初から素直に使い魔になってれば良かったのよ」 「素直じゃないのはお互い様でね」 「な、何よ!」 二人の様子を見てコルベールは安心したように頷くと、ふと何かを思い出してポロンの元へ駆け寄った。 「すみませんミスタ、その左手のルーンを見せていただいてもよろしいですか?」 「あん?これか?別にいいけど・・・」 「ふむ、珍しいルーンだ。有難う」 コルベールは素早くポロンのルーンをスケッチすると、手をパンパンと叩いて皆の注目を集める。 「では皆さん、これから部屋へ戻って今呼び出した使い魔との交流を深めて下さい」 コルベールの号令とともに他の生徒たちもぞろぞろと部屋へ戻って行く。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ!」 去り際にそんなことを言いながら飛んでいく生徒たちを見てポロンは驚いた。 その様子を見て、ルイズは「魔法を知らないなんて何処の田舎者よ」と呆れていたが、 ポロンが驚いていたのは飛べることではなかった。 (何で飛べるんだ!?世界から呪文は失われたはずなのに・・・) 思わずポロンは立ち尽くしていた。 ルイズはそんなポロンに気付かず、その場に置いて先へ進んでしまった。 ポロンは暫く呆然としていたが、ハッと気が付くとすぐに地面へ手を向けた。 「メラ・・・!」 すると、懐かしい感触とともに手の平から火の玉が放たれた。 火の玉は地面へ着弾すると、そのままパチパチと燃えている。 (呪文が・・・使える・・・だと!?) これは絶対に有り得ないことであった。 『失われし日』を境に呪文の消失は全世界に及んでいた。 魔力の有無に関わらず、全世界で呪文を使用することが出来なかったのだ。 それが使用出来るというのは、すなわちここが自分たちが知る世界では無い、ということである。 「・・・・・・」 ポロンはごくりと唾を飲み込むと、もう一度呪文を唱えた。 「メラゾーマ!!」 しかし、今度は何も起きなかった。 (魔力は足りている。呪文を忘れた?いや、違う。そういう感じじゃねえな・・・。急に使えるようになったから、心と体が慣れていないのか?そんな感じだな・・・) 「ちょっとポロン!!何で付いてきていないのよ!!」 ルイズが急いでポロンの元へ駆けつける。 ポロンはルイズの顔を見た。 ルイズは怒りながらも何処か不安そうな顔をしていた。 (そうか・・・俺がお前を置いてどっかへ行っちまったとか思ったんだな) 「ああ・・・すまねえな」 そう言うと、ポロンは軽く頭を下げた。 「ふ、フン。はぐれるんじゃないわよ!・・・ほら私の部屋へ案内するから。今度は一緒に付いて来るのよ?いい、離れないでね?」 ポロンは笑いながら頷くと、ルイズの後を追って歩き始めた。 前ページ次ページゼロの賢王
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ゼロの使い魔の二次創作スレ、及びまとめへのリンク あの作品のキャラがルイズに召喚させました 多重クロス。本スレの100スレ突破記念企画です http //noname.mydisk.jp/aniversary/anniversary.html ゼロの奇妙な使い魔 まとめ ジョジョの奇妙な冒険全般 http //www22.atwiki.jp/familiar_spirit/ 新世紀エヴァンゲリオン×ゼロの使い魔 ~想いは時を越えて~@ ウィキ 新世紀エヴァンゲリオンの碇シンジとエヴァンゲリオン初号機 http //www10.atwiki.jp/moshinomatome/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです @ ウィキ STAR WARSのダース・ベイダー http //www33.atwiki.jp/darthvader/ ハガレンのエドがルイズに召還されたようです@まとめサイト 鋼の錬金術師のエド http //www34.atwiki.jp/fgthomas/ ゼロの傭兵 フルメタル・パニック!の相良宗介 http //www31.atwiki.jp/zeronosousuke/ ゼロの保管庫 Wiki 【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合のSSまとめページ。成人向け注意 http //zerokan.g.ribbon.to/ ゼロ使×型月クロスSSスレまとめwiki TYPE-MOON http //www13.atwiki.jp/zeromoon/pages/1.html ガンダムキャラがルイズに召喚されました@ウィキ http //www8.atwiki.jp/gundamzero/pages/1.html ダイの大冒険のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ http //www33.atwiki.jp/dai_zero/ イチローがルイズによって召喚されたようです@wiki メジャーリーグの(伝説化した)イチロー http //www39.atwiki.jp/ichiro-ruiz/ 社長がゼロの使い魔の世界に召喚されたようです@ ウィキ 海馬瀬人社長と嫁達(および一部の科学の結晶) http //www30.atwiki.jp/shachozero/ 謙虚な使い魔@wiki FF11(ネ実)キャラのブロントさん http //www40.atwiki.jp/kenkyotsukaima/ もしゼロの使い魔の○○が××だったら まとめwiki (非クロスオーバー) http //ifzero2.herobo.com/
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前ページ魔法少女ゼロ☆ベル 普通の人なら丸一日かかる量の薪割りを、わずか一時間程度で終えた厚志は、そろそろルイズを起こした方がいいだろうと思い、シエスタに洗濯物をルイズの部屋まで届けてくれる様に頼むと主人が眠っている部屋へ戻った。 部屋に戻ってみるとルイズは、朝部屋を出る時と、全く変わらぬ寝顔で寝ているのであった。フッと軽く笑いながら厚志はルイズに声をかける。 「ルイズ君。もう起きる時間だぞ!」 「うーん?……キャア!あんた誰よ!」 目覚めたら、いきなりマッチョが自分の部屋にいる事にルイズは驚愕した。 「ヒドいなあ。昨日、君が召喚した使い魔だよ。」 ああそういえば…と、ルイズは昨日の使い魔召喚の儀式で彼を召喚した事を思い出した。 「もういきなり驚かさないでよ!変質者か泥棒だと思ったじゃない!」 「スマンね。できるだけ優しく声をかけて起こしたつもりだったんだけどね。まあこれからは慣れてもらうしかないよ。」 ルイズは明日から自分で目覚めようと誓うのであった。慣れる前に朝一で驚いて心臓が止まってしまうんじゃないかと感じていたからである。 「じゃあ、着替えと下着を取って。そこのタンスに入ってるわ。」 「これかい?」 「そうよ。丁寧に扱ってよね。あんたじゃちょっと力入れただけで破りそうだし。」 「はいはい。」 厚志は洋服タンスからルイズの下着と着替えを取り出す。 「ほら着替えさせなさい」 「ルイズ君。貴族は自分で着替えもできないのかい?」 ルイズのあまりに無茶な命令に厚志はあきれ気味に質問するのだった 「そんなわけ無いじゃない!ちゃんと出来るわよ。あんたは私の使い魔なんだからそれくらいしても当然なのよ。それと他人の前では「君」は止めなさいよ。様付けで呼びなさい!。それからあんたは私の使い魔なんだから、私の言う事は絶対服従しなさい!」 どうやらルイズは厚志を使い魔として教育・調教していくつもりらしい。 一方厚志は彼女を「守る」事には賛成だが、自分の生き方まで変える気は全く無いので、彼女にそこだけは譲れないと話すのである。 「「様」付けまでは了承しよう。ただし自分の事は自分で出来てもらわなければ、私も使い魔としてのやりがいを見いだくなる。私は君を命をかけて守る!君も私の主人に相応しい存在になってもらわなければ、使い魔の契約は破棄させてもらおう!」 少し強めの言い方で、ルイズに警告をする。 冷酷な様であるが高田厚志という人は優しい心を持っているが、いざ戦いとなれば徹底的に時には非情にもなれるくらい厳しい人である。 ルイズにも成長して欲しいと思うからこそ、時には冷酷に優しく見つめていこうと誓う厚志であった。 「ひっ!わっ、分かったわよ!……何よ。使い魔のクセして…」 ルイズはちょっと脅えながら、ブツブツと自分で着替えを行うのであった。 「えーとルイズ様?今日の予定は?」 ルイズの着替えを見ない様に厚志は声をかける。 「この後はまず朝食よ。その後は午前中は自分の召喚した使い魔を連れて共に授業をうけるわ。午後からは普通の授業があるくらいね。」 ルイズの着替えを終え、朝食をとるべく食堂へ向かう際にルイズの部屋と、真向かいの部屋の住人と対面する 「あら、おはようルイズ。」 「おはよう、ミス・ツェルプストー。」 ルイズの態度からこの赤毛の女性との仲は、あまり良くないようだなと感じた厚志であった。もっともルイズだけが毛嫌いをしているように感じた。女性はむしろ好意をもってルイズに接しているようだ。 「はじめまして。ミスター? 」 「私は高田厚志と申します。ルイズ様の使い魔をやらさせていただいております」 とりあえずルイズとの約束を守るため、使い魔として挨拶を行う。 「あらどこかの誰かとは違って礼儀正しいはね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーていうの、長いからキュルケって呼んでくださる」 「ちょっと!ツェルプストー!人の使い魔を誘惑してるんじゃないわよ!」 どうやらこの二人のケンカは日常茶飯事らしく、他の生徒は慣れたように2人をかわして食堂にむかうのであった。 「あー。2人とも早くしないと朝食がとれないよ?」 厚志は2人をなだめて、食堂へ向かう。 「あなた朝食はどれくらい食べるの?結構大食でしょ、その体格だし。」 ルイズは厚志の食事について心配していた。事前に少し多めの用意を頼んであったが、足りないかもしれないので、彼の食事について聞いてみた。 「栄養バランスがよければなんでも大丈夫だよ。わがままをいえばプロテインが、あればなおいいんだけど。」 「プロテイン?なによそれ?うーん、そうだ!厨房へ行って料理長に聞いてみましょう。多分あなたと同類だから。」 「同類?」 「行けば分かるわよ。」 食堂の厨房に入ってみると、やたら威勢のいい声が厨房内を飛びかっている。 「おら、なにやってんだ!鍋が吹いちまってるだろうが。」 「バカやろー!もっと腰を入れろ!そんなへっぴり腰で旨いもんが作れるか?」 明らかに他のコック達よりでかく厨房をしきっている人物に声をかける。 「ちょっとマルトー親方?私の使い魔に朝食をあげたいんだけど?」 「食事なら全部用意してあったはずだが、何か足りないんですかい?」 男はトリステイン魔法学園の厨房の主マルトー、厚志並ではないが腕の太さは丸太程あり、厚志と共通の何かが感じられる人物である。マルトーは厚志を見て 「兄ちゃんいいガタイしてやがんな!ああそういえば平民の使い魔を召喚した貴族さまがいるって聞いたがまさかヴァリエール嬢のことだったんですか。」 マルトーは夜の勉強の為に、たびたび夜食を頼んでくるルイズと顔見知りである。貴族ながらも努力しているルイズに対しマルトーは認めているのだった。 「そうよ。じゃ私は食堂で食べてくるし、後は親方に聞きなさい」 ルイズは食堂の方に向かい、厚志はマルトーに食事について注文をした。 「そのプロテインてのは分からねえが、要は栄養材の一種だろ?ツテを頼って仕入れといてやるよ。他ならぬヴァリエール嬢ちゃんの使い魔さんの頼みだ。何とかしてやるよ。」 「ありがとうございます。じゃあ、もう時間もあまり無いですし、卵を複数個と大ジョッキ貸してくれますか?」 厨房内は一瞬で静まり返る。他のコック達は冷や汗が止まろなくなり、メイド達は気分がわるくなったと厨房から逃げるように出ていった。 そんな中なぜか満面の笑みを浮かべジョッキを2つと大量の卵を用意する。 「お!分かってるね~。俺も朝一はこれが無いと始まらねえんだよな。周りから気分が悪くなるから止めてくれって言われてるんだが、ついに分かり会える同士と出会えたか!」 2人は慣れた手つきでジョッキに生卵を次から次と入れ、ジョッキ満タンになった所で、「体に乾杯!」と生卵を一気飲みしていくのであった。 周りのコック達はそんな彼らを怪物でも見るのように気分悪げに溜め息をつくのであった 前ページ魔法少女ゼロ☆ベル
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ギルガメッシュ召喚 タバサの任務につきあってミノタウロスを両断 ギルガメッシュ「弱い!俺の世界で聞いたミノタウロスってのはこんなもんじゃなかったぜ!」 タバサ「…スクウェアメイジのミノタウロスより強い…?どんなの?」 ギルガメッシュ「そうだな、俺の聞いた話じゃあ… 力の塔ってとこにいる最強の聖なる魔法ホーリーの番人で! 魔法禁止といっておきながらやばくなるとそのホーリーを持ち出そうとし、 しかも脳筋野郎なせいかMP不足で唱えることができない結局通常攻撃オンリーな芸の無い野郎 それを隠すためにあらかじめ戦場にミュートをかけておくという反則技は俺も大いに見習いたいところだ ついでにご自慢の腕力はすべてをしるものとか言うリターン厨な魔法使いのボケジジイに完敗しているという…」 タバサ「………」 ギルガメッシュ「…いや、でもコイツよりは強いはずだ、多分」
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ゼロの番鳥外伝『ルイズ最強伝説』 Q.ペットショップとギーシュが決闘してる間、逃げたキュルケとそれを追い駆けたルイズは何をしていたんですか? A.こんな事をやっていました ドカーン!バゴーン!ドカーン!バゴーン! 学院に爆発音が響き渡る。勿論、その原因は私の魔法だ 「あはははははははははは!!!!!」 口から溢れる笑いを止める事が出来ない。得体の知れない恍惚感が体を震わせる!何かカ・イ・カ・ン!最高にハイ!ってやつよ! 脳が破壊と破壊と破壊を求めて矢継ぎ早に指示を出す。 私の笑いに反応したのか、逃げているキュルケが振り返ってこっちを見た。ん?何で脅えたような顔をするんだろ? 悪鬼を見たような顔をするなんて、私の繊細な神経が酷く傷ついたわ! 「大人しく吹っ飛ばされなさい!」 魔力を注ぎ呪を紡ぎ、発動の引き鉄となる杖を振って、私が唯一使える大得意な魔法を放つ! ドン! やった!ドンピシャのタイミングで爆発が起こった! キュルケが予期したように回避行動を取ったが、私の狙いはキュルケでは無く、その頭上! ガラガラガラガラ・・・・・・・・・「うひゃぁっ!?」 みっとも無い叫び声を出しながら天井の崩落に巻き込まれるキュルケ キュルケの生き埋めの出来あがり♪と小躍りしそうになったが、下半身しか埋もれてないのに気付いた。チッ。 瓦礫の下から何とか抜け出そうと足掻いてる。くふふふ、無様ね。トドメをさしてあげるわ。 「んふふふふふ・・・・・・」 わざとらしく足音と笑い声を立てながらキュルケの前に立つ。 キュルケは慌てて床に転がった杖を取ろうとしたが、その手が届くより先に、私の足が廊下の彼方に杖を蹴り飛ばす。 顔面が蒼白になるキュルケ、私の狙いに気付いたようだ。 「ル、ルイズ、もう冗談は止めましょ?ね?杖なんか掲げてると危ないわよ?私達友達でしょ?」 先程までとは一変して哀願口調になる。ふん、それで男は騙せるとは思うけどこのルイズ様にはそんなの通用しないわよ 死刑を執行しようと、杖を振って呪文を唱え―――そこで私は気付いた!キュルケの目が私では無く、私の後ろを見ている事に! 「エアハンマー!」 刹那、転がって回避した私の横を空気の槌が通過――――そして ドゴン!「ふげっ!」 私が回避した事により、直線状に並んでいたキュルケに当たった。身動きできないんだからどうやっても避ける事は出来ないわよね。 潰れた蛙のよう声を出して気絶するキュルケ。ああ、何て可哀想なの!とても嬉しいわ私!うふふふふふ 大声で笑いたかったが。それよりも私に攻撃しようとした不埒者にお仕置きするのが先。 「ミス・ヴァリエール!杖を捨てろ!!」 下手人は魔法学院の先生の一人だった。生徒に魔法を使うなんて野蛮にも程があるわよ。 「杖を早く捨てて!頭の上で手を組んで床に跪け!早く!」 私は声を聞き流して、その先生に近づく。 どうせ教師の職権を乱用して、世界三大美少女に入るほど可憐な私に性的な悪戯をする気満々だろうし!命令を聞く気は無いのよ! 「ヴァリエール!指示に従え!!」 焦れたように叫ぶが私はそんなのを聞く気は一切無い。 距離が5メイルを切ってから―――私は一気に走り出した。 「くそっ!どうなっても知らんぞ!?エアハンマー!」 先生が杖を振り空気の槌が私の腹部に直撃―――する寸前! 私は滑るような足捌きで突如体を平行移動させる。ドガッ!「ひげぇ!」 後ろからキュルケの声が聞こえた、どうやらまた私が回避したことにより外れた弾の直撃をくらったらしい。 いい気味ね 「はぁぁぁ!?」 回避するとは思わなかったのか、化物を見るような眼で私を見つめる先生。 あんなんで倒せると思うとは甘い甘い。ココアにミルクと砂糖をたっぷり入れて生クリームを乗っけたより甘いわよ! 時が止まって見えるほど集中した私には、服の下の筋肉の微細な動きまで見えたんだから! 「おおおお!?」 魔法を放つ余裕が無いのか無我夢中に杖を振って私を殴り付けようとするが。 私は身を屈めてそれを回避!その動きのままに先生の懐に潜りこんだ!顔に驚愕の表情を張り付けているのが良く見える。 そして―――その身を屈めた運動による腰と足の力は腕に伝えられ!突き出される拳! 当たる寸前にその拳を柔らかく開き!粘りつくような掌を目標に捻り込む!狙いは先生の鳩尾! ドン! 破壊的な音が私の腕を通じて脳に聞こえた!カ・イ・カ・ン! 強烈な一撃をくらった先生は息を吐いてその場に崩れ落―――駄目押しぃぃ! 捻りを加えた足が顎を真上に蹴り飛ばす、上体が浮いて無防備な体を一瞬硬直させた。 私はその場でくるりと回ると、持っている杖を胴体に突き付け!即座に魔法を使い爆発を起こす! ドゴォォォン! 零距離で起きた爆発をまともにくらい、吹っ飛ばされて壁にめり込む先生。白目を向いて気絶してる。んん?泡まで吹いてる。軟いわね と言うか、ほぼ至近距離で爆発起こしたから私も煤塗れになっちゃった。後でペットショップに洗濯させないといけないわね なんて事を私が考えていると。 「ヴァリエール!!!!」 叫び声が聞こえた方向を見ると新手の先生の姿が!敵が増えた! モタモタしてられないわ! 「それぇ!」 倒した敵の杖を拾って思いきり投げ付ける。自分でも100点満点と思う程に洗練された投球フォームだ。 メイジにとって杖は命の次に大事な物。魔法学院の先生方がそれを知らないわけがない。 凄いスピードで一直線に飛ぶ凶器となった杖を、他人の物だからと言って魔法で撃ち落すわけにもいかず、私の目論見通りにしゃがんで回避する。 それを見てほくそ笑む私。その判断は、この戦いにおいて致命傷となる隙を作り出すわよ! 「!?」 飛ぶ杖に続いて突進していた私に気付いた先生が慌てた動作で杖を振り上げる。 だけど遅い遅い。気付くのが数秒遅いわね! ゴガッ! 私の頭突きが先生の顔面にクリーンヒット!噴水のように鼻血を噴出した!・・・うひゃっ!鼻血が頭にかかった!許せない! 反射的に顔を押さえる先生に、私の渾身の体当りが決まる。 倒れた先生の上に馬乗りになる私。俗に言うマウントポジションってやつだ。 鼻を押さえる先生の顔が恐怖に歪む。私が何をするか理解したようだ・・・・・・それも哀れに思うほど遅いんだけどね。 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!! 顔面に拳の連打をおみまいする。先生は狂ったように暴れるが、重心をピンポイントで押える私から逃れる事は出来ない。 それから十数秒後、ピクリとも動かなくなった先生の体の上から立ち上がる私。 目の端に又人影が見えた。敵ね!?敵は皆殺しの全殺しでズタズタのグチャグチャのミンチの刑よ!あははははははははは! 振り向くと、腰が抜けたような格好で後退りする女教師の姿を発見。補足して全速突進! 私が走ってくるに気付いたのか、泣きそうな顔が更に泣きそうになって持っている杖を振り、火を飛ばす。 「遅い!」 走りを止めずに首を曲げてその攻撃を回避。遅い遅い遅すぎる!集中している私にはスローすぎて欠伸が出るわよ! 絶望的な表情でそれを見た先生は悲鳴を上げながら、再度杖を振り巨大な火球を発射した。 それは『火』と『火』を使った攻撃呪文『フレイム・ボール』!小型の太陽が私を襲う! その火球が、体に当たって私を炭にするだろう一瞬前――――床を蹴り、壁を蹴って天井に届くほど高く跳躍しスーパーにビューティフルな形で回避。 それにしても『フレイム・ボール』なんて・・・・・・・生徒に向けて使うものじゃないわよ!危ないわね!これはお仕置きね! 「天誅!」 そのまま天井を蹴った勢いと重力加速を加えた私の蹴りが女教師の腹に決まった。 まあ、肋骨が粉砕して、内臓が破裂しかける程度に手加減しちゃったけど。私も甘いわね 甘美な勝利の感覚が脳に伝わり、知らず知らずの内に顔の表情が笑みを形作る。 「私が最強よぉぉぉぉぉっ!!!!」 ガッツポーズをとって叫び声を上げようとした所で、何かが鳴る音が聞こえて・・・・・・ 私の・・・・・・意識は・・・闇に落ちて・・行った・・・・・・zzzzz 倒れたルイズを見てやっと安心するコルベール、その手には秘宝の一つである『眠りの鐘』が。 コルベールは滅茶苦茶になった廊下や、打倒された教師達を見回すと、魂も吐き出すかのような溜息を突いた。頭髪が更に少なくなった。 この後、ちょっとばかり洒落にならない額の弁償金をルイズが払う事となったのは、物語とは更に関係無い話である。
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ルイズは夢を見ていた。 その空間には何もなく、しばらく辺りを見渡し、これが夢であることに気づく。 そして何も無い空間から彼女を囲むように、クリスタルが三つ現れる。 「な!? なに?」 いきなり現れたクリスタルは徐々にルイズに近づいてくる。 彼女の目の前までクリスタルが近づくと三つのクリスタルの中にそれぞれ火、水、土が入っていることが見て取れる。 『―かえして』 「へ?」 不意に声が聞こえてくる。 『―かえして』 『―かえして』 『―かえして』 ルイズはその声が目の前にある、クリスタル達から聞こえることに気が付くが、【かえして】と言われる覚えが無い。 「な? わたしが、何を取ったて言うのよ!?」 『―風・・・私達の大切な仲間・・・』 「へ? 風・・・」 ルイズは自分に関係のある風を思い浮かべる・・・そして、 「も、もしかしてワルド子爵!?」 ルイズは自分の婚約者が風のメイジだったことを思い出し、彼のことか聞くが、 『そんな奴要らない』 あっさりと拒否される。 『かえして』 「な・なんなのよー」 不意に後ろに気配を感じて振り返ると、そこには風を内包したクリスタルがあった。 『かえして』 「も・もしかして、かえし欲しいのはこれなの?」 ルイズは自分の後ろにあるクリスタルが、前方のクリスタルの目的だと思い、後ろにあるクリスタルを手に取ろうとするが、 「あ・あれ?」 クリスタルを手に取ろうとした瞬間、彼女は下へ落ちていくのを感じた。 ドン 「ふぎゃ」 ルイズはベッドから転げ落ち、目を覚しあたりを見渡す。 「えーと、夢? ・・・あれ? わたしどんな夢見てたんだっけ?」 ルイズは先ほどまで見ていた夢の内容を思い出そうとするが、ドアのノックの音によって思考がさえぎられる。 トントントン・・・ 「ああもう、こんな朝早く誰よ?」 ルイズは鳴り止まない音に、いらいらしながらドアを開けると見知らぬ青年が立っていた。 「あんた・・・誰?」 「おい!? 洗濯の場所を教えるんじゃなかったのかよ?」 「洗濯・・・ああそうだった。昨日召喚した使い魔だったわね。・・・はぁ、何でわたしの使い魔が人間なのよ・・・」 「いや、今はそれ関係ないだろ?」 ルイズとバッツがそのような、会話をしているとギィと隣の扉が開き赤髪の少女が現れ声をかける。 「あら、ルイズおはよう、今日は早いのね?」 「げ、ツェルプストー」 「あら、あっていきなり【げっ】だなんて、貴族として慎みが足りないんじゃないの? ヴァリエール」 「う、うるさいわねぇ」 ツェルプストーと、呼ばれた少女はルイズをからかいながら、その視線をバッツへと向ける。 「それにしても・・・使い魔に何を召喚するかと思ったら、楽師を召喚するなんて本当に見てて飽きないわねー。 でも、使い魔はやっぱりこういうのを言うのよ、フレイム!」 ツェルプストーの呼び声に彼女の部屋から熱気を放つ大きなトカゲが現れる。 「も、もしかしてサラマンダー?」 「ええ、しかもこの尻尾の炎の大きさからして間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」 「きゅるきゅる」 フレイムは何故かツェルプストーの近くに寄らず、バッツに向けて何かを期待するまなざしを向け擦り寄る。 「ん? なんか1曲聞きたいのか?」 「きゅる!」 「あら、この子昨日の楽師さんのピアノで音楽が好きになったみたいね。使い魔さん一曲お願いできないかしら?」 「一応バッツって名前があるんだが、それに俺は楽師じゃなくて、冒険者なんだけど・・・まぁいいか」 バッツはそういうと、道具袋からアポロンのハープを取り出し奏でようとするが、、 「ちょっとキュルケ! なんで私の使い魔を借りようとしてるのよ!」 「あら、別に貴方が着替えてる間、彼の暇つぶしなっていいじゃないの?」 キュルケに言われ、ルイズはまだ自分がネグリジェのままだったことに気づく。 「バ、バッツ!! 着替えるから手伝いなさい!」 「へ? ルイズあなた、男性に着替えを手伝ってもらうなんて、私のことをふしだらな女なんて言ってるけど、 あなたのほうが、私なんかよりよっぽどふしだらじゃないのかしら?」 「な!? コイツはわたしの使い魔よ!? 貴方だってそこのサラマンダーに裸見られたって平気じゃない!?」 「あら、彼は使い魔の以前に人間の男性よ? 好きな男の人に裸を見られるならともかく、着替えなんて異性にしてもらうなんておかしいじゃない?」 「くっ!」 「あ、やっぱり俺がルイズの着替えを手伝ったり、洗濯をするのっておかしいことだったんだ・・・」 「バッツ!!」 「あらやだ! 洗濯までさせるなんて、今まで貴方のことゼロのルイズって言ってたけど、本当はエロのルイズだったのね!」 「な・なんですって~!」 「ちょっと待てって、えーっとツェルプストーだっけ? 「キュルケでいいわよ」じゃあキュルケ、君が召喚したサラマンダーとかは、 今まで前例があるから世話の仕方も解ってただろうけど、ルイズが召喚したのは俺みたいな人間で前例が無いから、 きっと混乱して動物と使用人をごっちゃにしてやちゃったのが原因だと思うから、からかうのをよしてくれないか? 君だってもし、フレイムの世話で自分が解らないことで、ミスをした時にからかわれたら嫌だろ?」 「ええ、そうね。良かったわね、ルイズ貴方の使い魔十分に優秀じゃないの」 ルイズは普段から回りに魔法が使えないことでバカにされていたため、バッツに庇われたと思うよりもバカにされたように感じてしまい、 「いーい! わたしは着替えてくるから貴方はここで待ってなさい!」 そういうと自分の部屋に戻り着替え終え廊下に戻ると、そこにはハープを奏でるバッツと、それを効くキュルケとフレイムの姿あった。 「ちょっと何やってるのよ!?」 「いや、なにってハープを弾いてるだけだけど?」 「だからなんでキュルケに弾いてるのよ!?」 「いやだって、ルイズがあわてて使い魔の扱いで致命的な失敗をする前に忠告してくれたんだから、 そのお礼として1曲弾くのは変か?」 「うっ、もういいわ。食堂へ行くわよ!」 ルイズはバッツの腕を取ると、キュルケから引き離すように連れて行く。 「使い魔君「バッツでいい」じゃあバッツ、ルイズのところ要るのがつらくなったら、私専属の楽師として雇ってあげるわよ?」 「いや、俺楽師として生きる気無いから・・・」 「バッツ!」 ルイズはバッツとキュルケが会話できないようにぐいぐいと引っ張り食堂へ向かうが、 「あ、ルイズ悪いんだけど・・・」 「なによ?」 「俺もう自分で朝食作ってくたぞ?」 「別に貴方と食べるために、一緒に入るんじゃなくて貴方は使用人の代わりをすればいいの」 「なるほど・・・」 バッツはルイズの言葉に納得し、一緒に食堂に入りルイズのために椅子を引いたり、飲み物を注ぐなど手馴れたしぐさで行う。 「バッツ、なんか手馴れてない?」 「ああ、仲間にこういうことに厳しいのがいたからなぁ」 バッツの脳裏に水の心をもった王女様の姿がよぎる。 「ふーん、冒険者って荒くれ物ばかりだと思ってたけど、バッツの態度見てると冒険者もいいのかもね」 「まぁ、冒険者って言っても十人十色だから俺を基準にされても困るけどな。 それにしても、使い魔を召喚した記念かもしれないけど、朝からこの量ってやばくないのか?」 「ここの学園は常に貴族らしく振舞うために、食事もそれにふさわしいものが出るのよ」 「いや、その理屈はおかしいだろ?」 「なんで?」 「いや、何でって常に貴族らしく振舞うために、こんな豪華な食事を朝から食べてたら体型が貴族らしくなくなるだろ?」 「そ、それは豪華な食事が出ても自分の体型を維持できるように食事をコントロールする訓練もかねてるのよ!」 「ルイズ・・・目が泳いでるぞ・・・」 「う、うるさい!」 そんなこんなで和やか(?)に食事を取るルイズであった。
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前ページ次ページ鋼の使い魔 目を覚ました時、彼は清潔に整えられた一室のベッドに横たわっていた。彼は傷づいていた。深い火傷と、切り傷と、煙を吸って肺を焦がしていたのだ。 しかし、今目を覚ました彼は、自分の体にそのような瑕疵がないことに気付いた。飛び起きる彼はさらに、自分が鎧を脱いでいる事に気付く。 「……此処は……どこだ…」 仕切りの向こうから人が入ってきた。少女一人と、頭髪の薄くなった男性が一人。 「目を覚ましたようですね」 男は彼に話しかけてくる。 「ここはトリステイン魔法学院。貴方はこのミス・ヴァリエールにサモン・サーヴァントでよび出されたのです」 時間は遡る。 トリステイン魔法学院、春の使い魔召喚の儀式。それは二年次に進級する学生達が使い魔を召喚、契約し、自身の魔法属性と専門課程を決める大事な儀式である。 しかし彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、既に使い魔召喚の口上を数十回繰り返していたが、辺りには爆発によって地面に穿たれたクレーターが散見されるばかりで、使い魔に相応しいような生き物は影も見当たらなかった。 「ゼロのルイズは使い魔も召喚できないのか!」 「しょうがないよなぁ、だってゼロのルイズだしさー」 ギャラリーの心無い声にルイズの心は張り裂けそうだった。 杖を握る指が震える。忸怩とした気持ちと絶望が顔を覆う。 生徒たちを見守る役目を受けた教師コルベールは、ルイズを囲む生徒たちを下がらせ、ルイズの傍に立った。 「ミス・ヴァリエール。気負ってはいけませんよ」 「ミスタ・コルベール……」 己の無能に落胆するルイズに、あくまでも優しく、しかし強い心を込めてコルベールは説く。 「使い魔は、主人の半身ともなる大事な友です。そんなにしょげていては、やってきてくれませんよ」 「でも…私は…」 「無心に願いなさい。さすればきっと、始祖ブリミルの導きで、貴方にふさわしい使い魔を呼び寄せることができるはずです」 コルベールの説得にルイズは呼吸を整え、再び杖を掲げた。 「宇宙の果てのどこかにいる……わたしの僕よ。神聖で美しく、そして、強 力な使い魔よ。わたしは心より求め……訴えるわ。我が導きに……答えなさいッ!!」 ルイズは願った。自分にも使い魔を、誰にも侮られない使い魔をください。魔法が使えない私にせめて胸を張れるような使い魔を……。 振り込んだ杖の先の地面が、光を放って爆発する。巻き上がる土煙は、これまでの失敗よりもずっと激しく立ち昇り、広場を包んだ。 「ケホ、ケホ……つ、使い魔は……?」 土煙が収まらないまま、ルイズとコルベールは爆発の中心を覗く。カチャリ、と金属が擦れるような音がする。 徐々に収まっていく土煙の中に倒れていた、一人の男。煤に汚れた金髪と肌、精巧さと合理性を合わせたような見事な鎧をつけた意丈夫の男が、そこに倒れていたのだ。 「私達はひとまず、貴方の体の怪我や火傷を治すために、学院の医療室に運ばせていただきました」 「……」 男は言葉もない。目を芝立たせ、コルベールの説明を聞いていた。 「貴方の意思を聞かずに、コンクラクト・サーヴァントを行わせたことについては、ミス・ヴァリエールに責任はありません。ひとえに教師として私が指示した事です」 コルベールは男の左手に記されたルーンを指す。 「これは使い魔として契約したものに記される使い魔のルーンです。使い魔に関する詳しい話は、そこのミス・ヴァリエール本人に聞くのが良いでしょう」 話を振られたルイズは、コルベールと男の顔を交互に見るが、何を口出していいのかわからず、顔を背けてしまった。 「ひとまず此処は引き払いましょう。身に着けていたものはミス・ヴァリエールの部屋に送らせて頂きました。ではミス・ヴァリエール。私はこれで」 男はルイズにつれられてルイズの部屋に移った。部屋の隅に男が身に着けていた鎧や装飾品、そして「剣の抜かれた鞘」が積まれていた。 男は鞘を手に取りルイズに聞いた。 「これに収まる剣があったはずなんだが、知らないか」 「知らないわよ。あんたが召喚された時、最初から剣なんで入ってなかったわ。あんたが身に着けていたものは、そこにおいてあるので全部よ」 ベッドに腰掛け、男をまじまじと見るルイズ。 「使い魔の契約もしちゃったし、今日からあんたは私の使い魔よまず……」 「月が二つある……」 話を切るように男が呟く。男は窓から見える大小の月を見ていた。 「どうして月が二つあるんだ?変じゃないか」 「何言ってるのよ。月は二つに決まってるじゃない」 そう答えると、男の顔色が変わったのがルイズにも判った。どこか険しい色を含んでいる。 「グラン・タイユという地名を知っているか」 「グラン・タイユ?知らないわね。……何、月も見えないような田舎から来たって言うの?」 「ナ国は?ヤーデ伯というのに聞き覚えは?」 「なにそれ?知らないわ」 ルイズが質問に答える度に、男の顔に何か濃いものが挿していく。 「……アニマと術がわかるか?」 「アニマって何?術って魔法の事でしょ。あんた一体どれだけ田舎者よ」 質問が途切れた。男は座り込んでうつむいてしまったのだ。 「……ちょっと、あんたさっきから質問ばっかりして。なんなのよ……」 ルイズにしてもたまったものでなかった。やっと呼び出した使い魔は、傷だらけの平民で、傷を治してやったら、今度はよく分からないことを色々と聞いてくるのだから。 「……ルイズ、と言ったな、お前」 「お前とは主人に対して失礼ね。ルイズ様、とかご主人様、とかいえないの」 「俺はお前がどんな人間か判らないからな。敬語をつかうべきかどうか知らないね」 とりあえず、と、男は言葉を一旦切る。 「俺は随分と遠くにやってきてしまったらしい。術もない、アニマも知らない。そんな場所があるなんてな……」 「……はぁ、どうしてこんな田舎者を使い魔にさせたのでしょうか。始祖とコルベール先生を恨みます」 ルイズと男はお互いに別々の理由で、どこか悲嘆にくれていたが、ルイズは改めて向き直して、男に話しかけた。 「まぁお互い色々と思うところはあるけど、あんたは、私の、使い魔になったんだから。やるべき事はやってもらわなくちゃいけないのよ」 男もルイズに顔を向けて話を聞く。 「じゃあ、何をすればいいんだ。言っておくけど俺は何もできないぞ」 「使い魔はまず、主人と感覚の共有ができるはずなんだけど……無理みたいね」 みたいだな、と男は相槌。 「次に、使い魔は主人に望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」 「薬草の類なら知らなくもないが、あんまり当てになりそうにないな」 そう、とルイズが相槌。 「最後に使い魔は主人の身を守るんだけど……鎧と鞘着けてたんだから、腕の覚えはあるんでしょ」 「まぁな。……そうでなければ今まで生きていなかっただろうしな」 「……まぁいいわ。とりあえず私の護衛兼、小間使いとして置いてあげる。ありがたく思いなさい」 ひとまず話すことは話したのでルイズは気持ちの整理がつき始めていた。もう使い魔として契約してしまったのだから、こいつを使いこなさなければならないと、そう腹に決め始めていた。 「……元の場所に帰る方法はないのか?」 「ないわ。サモン・サーヴァントは呼び出すだけ。そもそも人間が召喚されるなんて、今まで聞いたことも無いし」 「でも俺は此処に呼び出された。しかも俺が気を失っている間に、こんなものまでつけて」 左手の甲をルイズに見えるように男は掲げた。 「ぐ……仕方なかったのよ!使い魔召喚を失敗したら、私はここを追い出されてしまうわ。領地に戻されても、お母様やお父様に合わす顔もないし……」 顔を背けてぽつぽつと声にならない呟きが漏れていくルイズ。 「……本当に帰れないのか」 「ええ……やっぱり帰りたいわよね」 「そうだな。向こうにはたくさん、遣り残した事があるんだ」 男の眼は静かに前を見ている。ルイズは少しだけ、そんな男がまぶしい。 「しかし帰れないんじゃ仕方が無いな…。使い魔、やればいいんだろ」 「……そうよ。やってもらわなくちゃ、困るわ」 あくまで男に対し主人として命令する立場に立ちたいルイズはしかし、男が身の処遇に納得してくれたことに安堵したのだった。 「……とりあえず、今日はもう遅いから寝るわ」 ベッドの上で服を脱いで下着姿になったルイズは、男に服を投げつける。 「洗濯物。明日洗っておいて頂戴。後、朝になったら起こしてくれる?」 男は目の前に投げつけられたルイズの服に唖然としていた。 「男に自分の服を洗わせて恥ずかしくないのか?」 「だってあんたは使い魔だもの」 おやすみ、とベッドにもぐりこんだルイズは、気付いたように男を見て、 「そういえば、名前を聞いてなかったわね」 「俺も教えた覚えが無いな」 床に毛布を敷いて寝床を作っていた男も答えた。 「名前は?田舎者でも名前はあるんでしょう?」 ごろりと横になったまま、 「名前か……」 男は自らを名乗った。 「俺の名前は、ギュスターヴ」 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページゼロと疾風 黒い壁があった。それは、例外なく目の前に現れる。ストリートのガキにも、大統領でさえ。 ほとんどのモノは、それを砕くことは出来ず、乗り越えようとするモノは爪が剥がれ、赤い筋を残すことになる。 ほとんどのモノはその壁から目をそらす。しかし、その壁に真っ向から向かい合っているモノもいる。 その黒き壁にあがこうとする人間がいる。この物語はそんな人間の物語。 現在、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは医務室にて頭を抱えて一人の男を見ていた。男はベッドの上で気を失っている。 ルイズは二年生へ進学する際のサモン・サーヴァントによってこの男を召喚・契約したのだ。 「なんで、こんな奴召喚しちゃったのよ・・・・・・」 先日、「サモン・サーヴァントには自信がある」と言ってしまったばかりである。 その結果がこれ。 本来、動物や幻獣を召喚するサモン・サーヴァント。その、儀式で人間(そのうえ、気を失っており、かなり傷ついている)を召喚してしまったのでルイズは周りのギャラリーから笑いものにされた。 その場にいたコルベール先生が彼の身なりから判断し。 「彼は凄腕の傭兵であるにちがいない」と言っていたが、メイジに平民に敵うはずが無い。 いくら、凄腕といっても平民の傭兵を召喚しては意味が無い。 「どうしようかしら・・・とりあえず、雑用でもさせようかな?」 ルイズがそんなことを考えていると男の眼がゆっくりと開き、起き上がった。 白髪の男性はチップという。彼は自称ジャパニーズ、しかし、大統領を目指している忍者である。 チップが長い眠りから眼を覚ました。頭がまだぼやけている。 チップはよく頭をめぐらせた。 (そうだ、I=NOのやつと戦っていたら急に何かに巻き込まれたんだった・・・) チップはI=NOの時間移動に巻きこまれたのだ。そんでもって、気がついたここにいる。 「やっと気がつたのね」 声のした方向を向いてみると一人の少女がいる。ルイズである。 「まずは自己紹介でもする?私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。一応よろしく」 隠れた表情を読むのは忍びの基本だ。チップが彼女から読み取った表情。 見下し、怒りをとおり越した諦めetc 少なくともチップの嫌いな人間に当てはまっている。 しかし、相手が名乗ったのだ。自分も名乗るのが筋だろう。 それに、ここが何処だか分からない。 「チップ、チップ=ザナフだ。ここは何処だ?薬品の臭いがするってことは病院かなんかか?」 「ここは、トリステイン王国・トリステイン魔法学院の医務室よ」 チップの聞いたことが無い地名だ。それに、魔法学校というのは法術に関する機関だろうか。 「とりあえず、ここを出ましょう。私の部屋で貴方が今置かれている立場を教えてあげるわ」 チップがルイズとの状況確認によって分かったこと。 この世界(月が二つあるのでチップのいた世界ではない)では魔法使いがいて、彼女は魔法使いの貴族である。 そしてこの場所は貴族が通う魔法学校である。 学生は二年生になるとき使い魔を召喚する。 チップはその使い魔を召喚するサモン・サーヴァントによって召喚された。 召喚される使い魔は自分での選択は出来ない。 使い魔は本来幻獣や動物が召喚される。 一度召喚されたからには変更は出来ない。(召喚のやり直しを求めたが却下されたらしい) チップとはもうすでに契約を行っており、証拠は左手に刻まれているルーン。 元に戻る方法は少なくも彼女は知らない。 大体こんな感じだ。他にもなんか言っていたが正直チップは興味なかった。 ルイズがチップとの状況確認によって分かったこと。 チップは異世界から来た。 (幾つかその世界について質問したがすぐに答えが返ってきた。特に矛盾点は無く嘘をついている様子も無いので一応信じる) チップは異世界ではニンジャという種類の傭兵である。 現在、ローニン(雇い主無しのフリー状態という意味らしい) チップの世界には法術があり、それは魔法と少し似ているらしい。 I=NOという女と戦っている最中、その女の何かに巻き込まれ気がついたらここにいる。 他は特に興味なし。 部屋着いてからこれらの状況確認に1時間かかった。この時間が短いと感じるか長いと感じるかは皆さんの自由だ。 「とりあえず、私は貴方の生活の保障、それと元の場所に戻れる方法を探すわ。 その代わり、あんたはその間私の使い魔、つまりわたしに雇われる。それでいいわね?」 「しょうがねえな・・・わかったよ」 ちなみに、状況確認からこのやり取りまで、更に30分間。正直メンドイので省略。 こうして、チップとルイズの生活が始まった。 「とりあえず、もう疲れたわ。朝になったら起こしてね。それと、洗濯頼んだわよ」 「はあ?なんで俺がそんなことしなきゃならないんだ?エリカだってそんなこと言わなかったぞ」 「エリカって誰よ?」 「俺が前仕えていた奴だ。大統領をやっていたな」 「ダイトーリョーってなに?山賊や大工の凄いバージョンの親玉?」 「国の代表だ、王様みたいなもんだ。いや、王様は『成ることが出来る』もんだが大統領は『選ばれなきゃ成れない』つまり、王様より偉い奴だ」 「へー」 「でもって、俺はその大統領に雇われていたが、 そんなこと頼まれなかったぞ。王様より偉い奴がしなかったことをテメエはするの?」 「う・・・」一時間半以上の怒鳴りあいによって疲れているルイズには論破する気力はなかった。 「洗濯ぐらい自分でやれ、あと自分で起きろ」 ルイズとチップの生活は前途多難だ。 「じゃあ、あんたが寝るところだけど・・・」 「別に必要ねえよ」 「へ?」 「忍びは闇に潜み主を守る。用があるなら手を叩け」 そういうとチップは闇に消えていった 部屋に取り残されたルイズは考えていた。 雑用などは断っていたが、あの身のこなしは凄い。 「意外と使えるのかな?」 最初決めていた彼の扱いを少し変えなくては、と考えた。 しかし、今は眠い。 「明日考えよ」 ルイズはそういい終えると服を脱ぎ、ベッドにもぐり寝息を立て始めた チップはやるからにはやる男だ。 物には必ず『芯』がある。守るも攻めるも、まずはこの芯を押さえる。チップはまず魔法学校の芯を探した。 歴史の古い建物というだけあって、様々な隠し部屋・隠し通路などがあった。 チップはその中のある隠し部屋に陣取った。ここなら、どんなことが起きようとすぐに分かる。 チップも疲れていたのか、全神経を研ぎ澄ませて眠りについた。 前ページ次ページゼロと疾風
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前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士